虫たちの音楽会
日本では平安時代から、宮びとたちの間では、秋の虫たちの音を聞いたり、虫を飼って放したりして楽しむ風習があった。江戸時代には庶民の間にも伝わって、小さな虫の音にも耳を傾ける生活習慣が広まり今日に至っている。
このようなことは外国にはないことで、日本人特有の情緒豊かなことを示している。人間は笑い、泣くという。猛獣は吠える。小鳥はさえずる。鳥は鳴くという。
一方、花の場合は、桜は咲いて散る。梅はほころぶ、牡丹は落ちるという表現がある。魚は口から発音するのと、振動音もあり複雑だ。
一般には鳥は鳴くというが、虫の場合は口で発音するのではなく、羽を振動して音を出すので奏でるということだろう。つまり、虫の音楽会は吹奏楽ではなく管弦楽である。バイオリンやアコーディオン、ときにはバンドネオンと多彩で、秋の夜のオーケストラでもある。

キリギリス(写真提供/なおさん)
日本では音を奏でる虫の種類は大別すると、コオロギ類、キリギリス類と類似のバッタの仲間である。その種は約100種を数えるが、それは人間の耳でキャッチする範囲で周波数によって聞くことができないものも多いだろう。
これらの虫たちは、晩春初夏の頃に卵から幼虫になり、立秋の頃から成虫になって鳴き出し、お彼岸の頃に最盛期を迎える。なかには夏の暑いさなかに、また年末まで鳴いているのもいる。一日の活動では、暗くなってから鳴きだす種類、昼も夜もよく鳴く種類、気温によって鳴く時刻が変わるのもいる。
この虫たちの生活場所は、育つ環境や、餌や産卵場所によってそれぞれ定まっており、環境別に棲みわけている。湿地には、タンボコオロギ、草原にはエンマコオロギ、クマスズムシ、乾燥地ではミツカドコオロギやマダラスズ、林縁や林にはヒゲシロスズ、クチキコオロギなどが生息場所である。また草の上や樹上生活をするのが、マツムシ、クツワムシ、カネタタキなどである。
有名なファーブルの『昆虫記』を読んだ人は多いが、虫はオーケストラを演奏する名人である。この音楽はテリトリーソングである。種単位の縄張りを主張しているという説がある。ところが哀愁をこめたバイオリンのように、オス、メスのラブソングもある。ガチャガチャとクツワムシのような威嚇音もあれば、リン、リンとスズムシのような心地よいリズミカルなメロディを奏でるのもいる。
童謡にでてくる秋の夜長を鳴き暮らすウマオイやカネタタキ、マツムシ、カンタン、スズムシ、キリギリスなど、そのメンバーは多士済々で興味はつきない。

キリギリス
筆者が少年の頃は、どこの家でもカマドがあり、タキギを使っていたので、カマドの余熱で大型のカマドコオロギが越冬していた。時代が変わり燃料革命となり、電気やガスとなり、いつの間にかカマドコオロギは絶滅に向かった。調査によれば、別府や熱海などの温泉地には辛うじて生き残っているという。
これらの虫たちの環境を守り、いつまでも虫の音楽会を楽しみたいものである。


