芸ができなくてもアシカらず

海獣の仲間には海と陸の両方で生活するものがいる。その中でアザラシは、後足を前に運ぶことができず、陸上ではヨタヨタと蛇足運動で歩くしかない。ところがアシカの場合は、後足を前へ出すことができるので芸までできる器用な動物だ。物覚えが速く、体全体が非常に柔軟性があり、いろいろな芸をすることができ、他の動物に比べると動きやすい体型になっている。
一般的にアシカと呼ばれているのはカリフォルニアアシカで、アメリカ・ロサンゼルスに近い島々にすんでいる。水中では、体がスピードの出る流線型になっており、前足の力が非常に強くて鳥の羽のように動かすことができるので、毎時40キロ前後の速度で泳ぐ。前足も後足も人間と同じように、指の骨は5本である。独特のひげは鋭い感覚があり、歯は32本で全部先がとがっている。水中で魚を追いかけて食べるのは朝飯前だ。この習性をすばらしく利用しているのが、動物園や水族館のアシカショーである。
当館では輸入されたアシカの子どもは生後、半年か1年未満から芸を仕込む。2、3年経つものは物覚えがよくない。人間の幼児教育と同じだ。最初は男子のトレーナーが厳しく訓練をする。そのため芸は上達するのだが、そのうちに、ハードに耐えかねてサボタージュをすこともある。今度は女子のトレーナーと交代する。ハードからソフトに変わり、女子は優しいのでよく言うことを聞く。ところが、しばらく経つと甘えの構造となり、言うことを聞かなくなる。また男子と交代する。つまり優しさと厳しさが教育の根本だとアシカから教わるわけだ。
訓練中にトレーナーはアシカに噛まれることだってある。そんな時、コラッとなぐったりするとアシカは、このお兄さんはおっかないとインプットして、以後、警戒することになる。優しい飼育係は手を噛まれ血が出ても我慢して、もっと噛めというと、パッと口を離す。このトレーナーは優しいということが判ると信頼関係が生まれて、ピッタリと芸ができることになる。
朝、飼育係が好物のアジをバケツに入れてプールに近づくと、アシカは中を見ていないのに何尾のアジがいるかが匂いでわかるほど嗅覚が優れている。長靴をはいたトレーナーの歩く足音を聞き分け、今日は係がルンルン気分だと判ると、サボることもあり、機嫌が悪いと判るとビシビシと芸をこなす。
ジャンプや、輪投げなど多彩な鼻芸を披露すると観客から拍手をされる。アシカもそれに応えて拍手をするのは愛敬か。それでもアシカだって人間と同様にその日によって体調がすぐれない時もままある。アシカのことだから「あしからず」というのでチーム名は「ザ・アシカラーズ」である。
アシカは自然界ではハーレムをつくり、オス1頭で30頭から50頭のメスをしたがえた男性天国だ。でも考えてみると、交尾期にはオスはたくさんのメスを相手にするので、精力的にはクタクタになるのではないかと同情したい気持ちも大である。(写真提供/鳥羽水族館)




