アンコウは働き女房と居候亭主
深海魚のギャングの親分とでも言いたいアンコウは、頭がつぶれたように幅広く、口はバカでかく、下あごが上あごよりとびだしている。小魚を捕らえるのに便利にできているが、ノコギリ型の鋭く強い歯を持った顔はグロテスク以外に表現のしようがない。
普通は100~200メートルぐらいの深い海底にいつもじっとしていて、体の色も泥の色に上手に合わせ、たくみな保護色をしている。頭の上の皮のついた触ヒゲを持っていて、この釣竿を時々動かしていると、小魚たちが餌と勘違いして近寄ってきたところをパクリと呑み込んで、のんきに暮らしている変わり者だ。
アンコウはアバラ骨がないため、触るとグニャグニャし、おまけに鱗もないのでヌルヌルしていて気持ちが悪い。まったくつかみどころがないので、マナ板の上では、とても料理ができない。だから料理する時は、針金で上あごを引っかけて、高いところにつるし、腹いっぱいに水を入れ、重くして頭の方から包丁を入れてゆく。冬には特にお相撲さんに喜ばれるアンコウ鍋(チャンコ鍋)やアンコウ汁にすると栄養があり、正に天下一品の珍味だ。

通人は大物を好む。これは七つ道具といって、釣竿の部分、キモ、エラ、ヌノ(細長い卵の袋)、皮、前ヒレ(茶仙骨という飾り)胃袋の七品が揃わないと本物の料理といえないからだ。特にキモやヌノ、皮がうまい。前のヒゲは1、2本が普通だが、大物では3本あるのがいて愉快だ。旬は12月から2月中頃までで、3月ともなれば味は落ちる。
つるし切りをされるので、「アンコウを見て高雄の親が泣き」とか、また捨てるところが少ないので「口と背骨を残しけれ」といわれるほど、ごく一部が使えないだけだ。キモにはビタミンEが多く含まれ栄養価は実に8万5000国際単位(薬理学で用いられる、生体に対する効力でその量を表す単位)という、他の食品では考えられない驚異的な超ウルトラ級である。
大西洋の深海に棲むミツクリチョウチンアンコウは生物界の七不思議といってもいいだろう。ふつう魚や鳥、けもの類にはオスとメスの大きさが多少違っているのもいる。しかし、このアンコウは全くの例外である。それは実物を見て驚いたのだが、メスは体長約60センチと大きいが、オスは僅か2センチと小さく「超ノミの亭主」なのである。オスはメスの首筋に寄生してメスから養分をもらうため、口は小さくなり咬着(オスはメスに咬みついている)している。臭覚器官が著しく大きくなり、目は望遠鏡のような外観をしているものさえある。
では、何のためにオスはしがみついているのか。それはふだんは働かなくとも、ただあの時だけ頑張ればいいのだ。あの時とは、受精をする役割で、まさに居候亭主に働き女房の典型である。オスはパスポートなしで海外旅行に行けるし気楽なものだ。一尾のオスだけでは満足せず2尾目のオスを尾部にくっつけている女丈夫もいる。人間社会の常識では考えられないアンコウたちの知恵もあるのだ。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.dailytimes.jp/blog2/mt-tb.cgi/67


