セイウチは海の象
1世紀前、アフリカ大陸やインドなどに約300万頭も棲んでいた象が、現在十分の一の約30万頭に激減していったが、その現象を海に置き換えたらどうなるだろうか。
その巨体と大きな牙をもつセイウチは、海の象として好対照である。象はインドとアフリカの暑い地方に棲むのに、セイウチは逆に氷の海、北極圏を住家としている。アラスカ、カナダ、ロシア、ベーリング海を本拠とし、時には北太平洋やグリーンランド、そして日本でも北海道にもやってくる。

セイウチのポウちゃん(左)とクウちゃん(写真提供/鳥羽水族館)
アメリカの調査では、アラスカ海岸では約1500頭から3000頭が生息していると推定されている。しかしその分布は北極を囲む氷原の端、北氷洋であるが、冬は南下してハドソン湾からベーリング海を経て、日本でも過去に函館や八戸で発見、捕獲された例もある。完全な数量調査はできていないが、極く限られた海域であるし、繁殖シーズンや移動コースも判っていることと、水中のみの魚種と違って陸上生活が多いから比較的データは取りやすい。
これらの海獣類は海洋写真家が撮影に成功した迫力ある写真展も開催されている。有名な写真家中村庸夫氏は北洋のある無人島で、見事なほどのセイウチの群れがところ狭しとこの海岸にも、あちらの波打際にも無数にいるのを撮影された。まさにセイウチの島であり、正確には数えきれないが数万頭も集まっているのを目撃されたことは注目に値する。不思議に思うのは、彼らの主食であるオオノガイのような二枚貝が、彼らすべてが生きていけるほど、無尽蔵にあるのだろうか、種族保存の立場から今後の課題となるだろう。
当館では2005年12月にロシアから輸入した2頭の幼獣を飼育しているが、生後半年で約70キロから1年半でオスは210キロ、メスも190キロと成長が早い。寿命は30年前後といわれているが、メスは1.2トン、オスは3メートル約2トンの体重となる。そのため食欲は旺盛で、サケ、タラ、ホッケ、シシャモ、アジ、オオアサリをミキサーにかけたミルクを調整、牛用の哺乳びんに入れて飲ませている。
セイウチの特徴は、ずんぐりと胴回りがあっても目がまん丸く、口もとには約500本の触毛がある。これは餌を探すための触角の役割をしており、まるで固いブラシのようだ。アシカやオットセイのように人に噛むことはない温和な性格だ。知能指数は高く他の海獣類と比べて調教も実にスムーズだ。臭覚や聴覚も発達して、わずか1日でハーモニカを吹いたり、水ふきやウガイ、腹筋運動や寝返り、バイバイなどのポーズもマスターしてしまう。但し、好き嫌いもはっきりしていて、飼育スタッフの喜怒哀楽も判るほどだ。
幼いから牙は、まだ5センチほどだがオスが成長すると1メートルの巨大な牙を持つ。天敵は北極グマだが、幼獣は食べられてしまうが、オスの成獣は強大なクマを攻撃し牙で倒すこともあるというから自然界は厳しい。
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