ハトは子どもをミルクで育てる
人間をはじめ哺乳類は子どもに母乳やミルクを与えて育てるのが一般常識である。ところが鳥の中でもミルクで育てる仲間がいる。9000余種もいる鳥の中でもハトとフラミンゴの仲間に限られる。
誰でも知っている公園や駅などで見かけるハトだから意外なことと思う読者も多いことだろう。ハトの仲間はヒナが卵からふ化すると、最初の数日間は、このミルクだけで子を育てる。子の成長につれて、両親はだんだんと他の食物も混ぜて与えるようになるが、ヒナが成長して巣立つまで、ミルクは与え続けられる。ハトは乳離れが遅いからだ。

このミルクは鳩乳(ビジョンミルク)と呼ばれるもので、水分の他にタンパク質と脂肪、そして若干のミネラルとビタミンを含んでいる。かなり濃い液でチーズのように固く栄養価も高い。このミルクは母親の乳房から与えられるわけではない。
鳥類には、食道の一部がふくらんでできた咀(そ)のうという器官がある。これは食物を一時的に貯蔵しておく場所と思ってもらえばよい。ハトの夫婦が巣で卵を温め始めると、この咀のうの一部分が厚くなる。そしてヒナが生まれるころになると、厚くなった壁が内側からはがれる。これがビジョンミルクの正体である。ハトの親は、はがれた咀のうの内壁を吐きもどして、ヒナに与えるのである。
哺乳類ではミルクは母親の専売特許であるが、ビジョンミルクは母親も父親も出すことができる。両親が交代でミルクを与え育てるのである。ヒナはふ化して数日はミルクのみで、次第に親が食べる食物も食べるようになる。親は食物を咀のうにためて運んできて、ミルクと混ぜて子に与える。これがハトの離乳食となる。消化がよく、栄養豊富なミルクを与えられるため、ハトのヒナの成長は非常に早い。だが、ふ化してから巣立ちまでの期間は2、3週間と一般の鳥とあまり変わらない。
ハトの卵は親の体重との比でみると、9パーセントと小さい。この比は、ハトよりも小さいスズメやツバメ、ヒヨドリなどよりも小さい。つまり他の鳥よりも小さな卵から生まれて、同じくらいの期間にずっと大きく育つのである。ハトの子育ては、文字通り「小さく産んで大きく育てる」という方式をとっているわけだ。
ビジョンミルクは白っぽい色をしているが、フラミンゴのミルクは鮮やかな赤色でピンクの体色を作りだす、カンタキサンチンという色素がミルクに含まれているからだ。フラミンゴはハトと違い、ヒナを数日間しか巣で育てない。
このようにハトもフラミンゴも、生まれたばかりのヒナにミルクを与えることで、巣から離れずに子の面倒をみることができる。ヒナが最も外敵に狙われやすいこの時期に親が巣を離れることがないので、子の死亡率は下がる。そのため1回に1、2個の卵しか産まなくても十分に子孫を残すことが可能となる。また親は自分の体の一部分を子に与えるのでこの方法をとるのだろう。今日も世界の街角で、平和のシンボルのハトの両親は子にミルクを与えているのである。
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