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2007年10月01日

ワタリガニのミステリー

 エビやカニの仲間は甲殻類といって世界で約6500種類に及ぶ。カニで美味なのは、北海道産の毛ガニやタラバガニ、日本海側のエチゼンガニ、中国産の上海ガニ等もあるが、味覚NO.1は恐らくガザミであろう。このガザミの種類も多いが、太平洋岸に普通に見られる通称ワタリガニである。


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香川県水産課提供


 筆者が少年の頃、夏の海岸でよくこのカニが月夜に海面を泳いでいるのをタモですくって捕らえたものである。足の一部がボートのオールのように平べったく、水中でバタバタさせて泳ぐことのできる仲間だ。月光に照らされて海を渡るガザミはロマンチックで砂漠を歩くラクダのように詩情豊かなものだ。熱帯地方には緑や紫色がかった美しいガザミも多く、最近の市場には養殖されたタイワンガザミも多い。


 さて、このガザミの一種は水域によって種類が異なり味も違う。十数年前のある日、日本沿岸にはまったくいないはずの青いガザミが浜名湖の近くで発見されたニュースがあった。カニの研究家や関心をもっている者には、どうしてそんなところにガザミがいるのか信じられないようなことだった。この青いガザミの正体は、アメリカン沿岸やヨーロッパにはごく普通に分布するアオガニであることが専門家の鑑定ですぐにわかった。


 だが日本にはいないカニであるのに、どうして浜名湖近くにきたのか謎である。いくら泳ぎの達者なこのカニでも、アメリカやヨーロッパからはるばる日本見物にきたのではないだろうし、そもそも長距離旅行は不可能である。それでは単独遊泳が無理なら何かに付着して日本近海で育ったのだろう。いやこれも不自然で、まして天敵の多い自然海では簡単に成長する確率はまずないとみていい。


 ところが先年、日本甲殻類学会で話題になった時、当時の会長の酒井恒博士のミステリーを解く名解説でやっと納得することができた。その推理というのが結局、大西洋のアオガニがアメリカの原子力潜水艦のバラストタンクの中に入り、パナマ運河を通り日本近海にきて、タンクの外に出たメガロバ(カニの幼生)か稚ガニが遠州灘近くから餌を求めて安全地帯の浜名湖近くで育ち生活していたのだろうという推理である。


 最初聞いた浜名湖あたりは越冬ツバメもいる気候温暖な地だから、遺伝的にこんなことも起きるのだろうと疑問をもっていた。この突然変異でもないトピックスは、一匹だけではなく、数匹の個体が発見されているので興味深い。恐らくもっと多数の仲間がいることだろう。今後もこの近海で追跡調査をすればこのカニの発生や移動、生活史を知るうえで貴重なデータとなろう。


 このガザミの中でもフィリピンやパラオ、インドネシア等のマングローブに棲むノコギリガザミは特に大型で、面白いのは捕まるとオスは、あきらめているのか温和(おとな)しくしている。ところがメスは大きなハサミを左右上下に振りまわして暴れまわる。やはりメスは卵を守るための母性本能が濃いのだろうと感心させられる。