ムカデは暗黒の王者
世の中の嫌われ者にもいろいろあるが、ムカデは見かけが悪いとか、人間にもかみつくなどの理由で好かれることはない。

セスジアカムカデ(オオムカデ目)
写真提供/(財)日本環境衛生センター武藤敦彦氏
しかしその反面、「足が多い」ことを「客足がつく」とか「おあし(銭)が多い」と解釈して、人の出入りが気になる商店主たちからは、縁起ものとして歓迎されることもある。ムカデにしてみれば、人間の都合で善玉にされたり悪者扱いされたりしていい迷惑だろう。ここはひとつ、ムカデの代弁者となって彼らのことを紹介することで、罪ほろぼしをしよう。
大地は土壌であり、この住み場所は小はダニ、トビムシ、大はトカゲやモグラなど種類も多い。ムカデもここの住人で、ふつう落ち葉のすきまや石の下、土の中の暗い湿ったところにすんでいる。
これらの土壌にすむ生物は大きく二つに分けられる。一つは落ち葉や倒木、けもの、昆虫といった生物の遺体を分解し、土壌を作り出す分解者や低次消費者だ。もう一つはこれらを捕らえて食べる捕食者だ。
ムカデはもちろん捕食者で、昆虫やミミズ、さらに同じ捕食者である小型のクモまでも捕らえて食べる。また大型のムカデになると、トカゲやヤモリ、小さなネズミまで襲うことがある。したがってこれらのムカデは、土壌の食物連鎖のトップに近い座をしめているといえよう。大地の下で繰り広げられている食うか食われるかの暗黒の世界において、陰の実力者なのである。
ところで、この実力者が、力にものをいわせるばかりではなく、実にきめこまやかな子育てをすることはあまり知られていない。
外見からは見分けがつかないが、オスとメスは交尾に似た間接的な行動で卵を受精させ産卵する。春から夏にかけて一度の数十個の卵で約2時間を要する長丁場だ。卵は丸くて黄色の小さな粒である。母親は落ち葉の下などで、体を「の」の字に曲げて産卵し、その卵塊をあしで受け止める。母親が卵塊を取り巻く形になるので、まるでかごに入っている卵のように見える。
母親は卵をしっかりと抱きあげ、湿った地面に着けることはない。そして適度な湿り気を卵に与えるため、ふ化するまで一日に何回も卵をなめる。もし母親が抱卵をやめたら、この小さな粒は、ジメジメした土の上で、たちまちカビにおかされるか腐ってしまうか、他の餌食となってしまう。
ムカデのあしの数は頭と胴からできていて胴の節がいくつも連結されていて自動車のタイヤチェーンのようだ、その節には一対ずつのあしがついている。胴の節の数は種類によって違い、最低15個、最高177個ある。したがって足の数は30本から354本という計算になる。漢字でムカデを「百足」と書くが、これは誇大表現ではない。
さてこの気味悪いムカデも人間とのつきあいは古い。古代では魔除けとして持ち歩き、日本では油漬けにしたものを傷薬に使ってきた。東アジア全域では、今でも乾燥ムカデを精力剤として使っているのは、雄々しさ、きれい好き、子への深い愛情にあやかっている。
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