ミステリーの逸材・東野圭吾
大手取次調査の「今週のベストセラー」10月28日調べで、東野圭吾の『聖女の救済』『ガリレオの苦悩』『流星の絆』が、1・2・3位を占めている。
一人の作家の作品が、上位の3冊を独占するのは希有で、東野の推理小説は一時期の松本清張や赤川次郎を超える魅力がある。
それに加えて、彼の既刊作品はほとんどがロングセラー化している。一例を挙げれば、11月8日、朝日新聞に掲載された光文社文庫の売れ行き部数は、次の通りになっている。
『怪しい人びと』 26.5万部
『美しき凶器』 27万部
『回廊殺人事件』 25万部
『殺人現場は雲の上』 25万部
『ブルータスの心臓』 23万部
『完全犯罪殺人リレー』 23万部
『ゲームの名は誘惑』 34万部
『犯人のいない殺人の夜』27.5万部
『白馬山荘殺人事件』 28万部
『11文字の殺人』 47.5万部
広告の部数とはいえ、これは半端ではない。さらに、『容疑者Xの献身』の150万部をトップに、ミリオンセラーは5点もある。
ミステリー作家として、自他ともに許す実力を実証しているとみて間違いないが、いまこれだけ売れ筋の作家が、1985年『放課後』で第31回江戸川乱歩賞、98年に『秘密』を刊行し、第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞するまでは、直木賞をはじめ有力な新人賞にノミネートされるものの、落選の常習者だった。
直木賞では、120回(『秘密』)、122回(『白夜行』)、125回(『片想い』)、129回(『手紙』)、131回(『幻夜』)と、5回も落とされ続け134回『容疑者Xの献身』で、ようやく受賞したのだった。

直木賞は、候補作品に残りながら、「人間が描けていない」と、審査員のステレオタイプのいちゃもんを受けて、ことごとく落とされてきたのである。
しかし、『容疑者Xの献身』では、天才の折紙がつく数学者でありながら、不遇な生活を送っていた高校教師石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子たちが前夫を殺したことを探知。靖子に、想いを寄せていた石神は、二人を救うために身替りとなって完全犯罪を企て、アッと驚く大トリックをフューチャーする。
ところが、石神の大学時代の親友・物理学者の湯川学が、天才的数学者のもくろみに挑むことで、容疑者Xの献身は綻(ほころ)びを見せる……。
この作品は、第6回本格ミステリー大賞(小説部門)の受賞と、『このミステリーがすごい!2006』で第1位となるに及んで大ブレイクした。
江戸川乱歩賞、吉川英治新人賞、日本推理作家協会賞、直木賞などの候補になること15回――。
作家になってからは、次々に刊行する作品が増刷されずに終わることも珍しくなかったが、99年第52回日本推理作家協会賞を『秘密』で受賞し、映画化された頃から、東野圭吾はミステリー界の一大人気作家となったのである。
ハイテンポの語り口と、巧みなトリックの連続で読む者を飽きさせないストーリーは、推理界を背負う逸材に間違いないだろう。


