危険がいっぱい!! 口腔内の細菌があなたの健康を害している
~いかに免疫力を高め口の中の病気を抑えるか~
大阪歯科大学口腔衛生学講座
教授・歯学博士 神原正樹

かんばら まさき
1972年大阪歯科大学卒。76年同大学歯学博士、89年米ボストンフォー
サイスデンタルセンターおよびオランダ・ワーゲニンゲン大学留学、93年
大阪歯科大学教授、2008年同大学副学長。同年日本口腔衛生学会副
理事長、同9月世界歯科医師連盟理事会メンバー。著書は「歯の健康学」
(岩波書店)「口腔保健学」(医歯薬出版)など。
人間の口の中に多くの細菌が生息している。その口の中にいる細菌は、身体の健康と密接に関連しているといわれている。歯学博士で口腔衛生の専門家である大阪歯科大学・神原正樹教授に、口の中のことと健康との関わりなどについて聞いた。
歯周病菌と心臓疾患
Q 口の中にいる細菌と身体の健康は、どのように関わっているのでしょうか。
A 細菌との関連でよくいわれるのが、歯周病菌と心臓疾患との関連ですね。たとえば、歯肉や歯槽骨(歯の周りで歯を支えているあごの骨)などの歯周組織を破壊していく歯周病菌が、心臓病の患者さんの心臓の血管から見つかることがあります。
歯周病を治すことで早産が治まったり、逆に早産の人が歯周病を患っていることが多いといったこともあります。また口の中のバクテリアが肺に流れてしまって、肺炎を起こす場合もあります。だから病院に入院している寝たきりの患者さんには、看護師さんが毎朝ガーゼで口の中をきれいにします。口腔内分泌物が少量ずつ肺内へ吸引される、誤嚥(ごえん)性肺炎を防ぐためです。
Q 虫歯の原因になる菌もいますね。
A 主に口腔のミュータンス菌が、酸を産生して歯を溶かし虫歯を引き起こします。それ以外に、棒状の乳酸桿菌(かんきん)も虫歯の原因菌といわれています。その数を測定することで、虫歯のなりやすさを判定することもできます。
歯周病では、酸素がなくても生きることができる細菌が主な原因となります。この歯周病関連菌は歯茎の炎症を起こしたり、細菌が産生する物質が骨を溶かします。どちらにしても悪さをするわけです。
Q 口の中の細菌と身体の健康との関連は、科学的に立証されていますか。
A 心疾患や他の全身の病気との関連は、いろいろエビデンス(信ずるべき根拠)が出てきていますが、必要十分条件にはなっていません。どういうことかというと、歯周病があれば必ず糖尿病になり、その逆で糖尿病があれば必ず歯周病菌が存在するという関係にはなっていません。医学論文も50パーセントがその関係があるといい、残りの50パーセントは関係がないといっています。
エビデンスは、ラットを使った実験で出てきました。歯周病菌をラットの口の中に入れて解剖してみたら、心臓の血管に歯周病菌が見つかったのです。それで、関連するのではないかと言われています。他のいろんな因子と合わせて関連性があるのではないかというのが、今のいちばん妥当な考え方です。でも、もう少しデータが必要です。
口の中の健康づくりとサプリメント
Q ある種のサプリメントをうまく摂ることで歯周病を抑えたりすることは可能ですか。
A それを摂ることによって何に作用するかです。歯周組織の活性にかかわるのか、そこの菌叢にかかわるのか。あるいは、何にアタックしているのかということですね。
多くの細菌学者は確実に関係すると言います。ところが、歯周病も細菌がなかったら起こらないけれども、その細菌がいたらみんな起こるのかというとそうでもありません。そこが口の中の病気の難しいところです。
虫歯というのは、日和見感染症の一種です。日和見感染症は、口の中にいる常在細菌がある時に突然悪さをしだして病気を起こします。歯周病菌もどこからきて、どのように増殖して病気を進行させるのかということがいろいろ研究されていいますが、100パーセントの答えがないのが現状です。
Q 口の中が病気にならないようにケアすることがまず大事ですね。
A 日本の12歳児の虫歯の本数は、いまでは1本ぐらいと少なくなってきました。それは小学校6年間でほとんど虫歯にならないということです。
われわれのデータでも、30歳より若い世代は、それより前の世代に比べ数段口の中がきれいです。歯周病になっていません。“歯周病にならない世代”に変わってきています。ですから、今までの口の中の病気に対する考え方を変える必要があるのではないかと言っています。
Q 発想を変えなければいけない時代になったということですか。
A 今までは病気にならないことを考えてきました。これからは口の中の健康な状態を、より健康にするにはどうするかが重要です。そこではサプリメントや食品の効果が期待できます。
私の研究室では小学校でガムの臨床研究をして、3年目になります。昼食後、全員にガムを噛んでもらいます。それで口の中の状態がすごく改善してきています。ものを噛み、食べることも「食育」の一つとして子供に浸透しています。口の病気の罹患率が下がってきたために、そこを追求していくことが今後の課題としては非常に大事だと思います。
学童期、中高年者はデータがとりやすいのですが、問題は成人です。その年代に乳酸菌やサプリメントがどう効くのか。職場のメタボリック検診のときに、そういうものをアプローチしていくのも一つの考え方です。
口の健康づくりも免疫力が大切
Q 歯の部分で免疫機能が高まれば、炎症をもっている方は起こる度合いも低くなります。その意味で免疫を高めておくというのは、口腔の健康に対してもいいわけですね。
A そうですね。とくに歯茎の病気は全身とつながっているので、全身が衰えてくると歯茎の病気も起こりやすくなります。糖尿病もそうです。糖尿病と歯周病が直接的に関わることではないと思いますが。糖尿病になると歯周病になりやすくなります。糖尿病になると、全身の病気への罹患率が非常に高くなってきます。だから当然、歯周病にもなりやすいわけです。
最初に述べましたが、全身と口が関わっていることは明確かと思います。ですから、免疫を高めて身体の免疫力を高めると、口の中の病気も抑えることができるでしょう。
Q 口の中が健康な状態を、より健康にするにはどうしたらいいのでしょうか。
A 健康づくりは栄養、運動、休養です。そこには病原菌は入ってきません。口腔にとって栄養、休養、運動とは何なのかを考えると、栄養は歯をつくったり口の中の組織を形成することにつながります。運動は、口で咀嚼するという動作です。口や舌を動かすことで、体全体にそれが機能し、栄養分をよく摂ることができます。
それでは、口腔にとって休養とは何でしょうか。人間の体の場合は、リラックスするとか、十分な休養をとることが考えられますが、口の場合の休養は何かというと、自然の状態で唾液に覆われている状態なのではないでしょうか。
ところが今は、薬によって唾液が出ないとか、いろんな症状の人が出てきています。そういう状態は、口にとっては休養になってないとも考えられます。その意味でも、唾液に関連するサプリメントの研究をしてみてもおもしろいかもしれません。高齢者のなかで、口の中が乾燥気味だという人は結構多くいらっしゃいます。そういう人たちは、大抵薬を飲んでいますから、身体自身の免疫力を向上させるためのサプリメント開発が今後期待されます。

大阪歯科大学キャンパス




