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2009年06月01日

医学講座■免疫臓器としての消化管における腸内細菌の関わり (2)

腸内環境を保つ乳酸菌の新たな役割

大阪大学大学院医学系研究科 生体機能補完医学講座教授(医学博士) 
伊藤壽記

        
「免疫」という重要な役割を果たす腸内細菌。善玉菌の代表・乳酸菌は、コレステロールの低下やピロリ菌の減少、歯周病・虫歯の予防、アレルギーの改善、発ガンの抑制など多くの働きがある。


500種類、100兆個の腸内細菌

 前回(5月号)、生体における最大の免疫系である消化管が、病原体などの有害なものを“正の免疫応答”で排除し、栄養素などの有益なものは“負の免疫応答(経口免疫寛容)”で積極的に取り込むという重要な働きをしていることをお話しました。


 今回はこうした免疫機構を維持するために、また免疫機構が破綻したことによる各種病態に、腸管内に生息する腸内細菌が深く関わっていることについてお話したいと思います。


 まず、腸内細菌についてご説明します。我々の体内に生息する腸内細菌は500種類、100兆個も存在し、重さにして実に1.0~1.5 kgに及ぶとされています。腸内細菌は体にとって、健康の維持に働く有用な菌(いわゆる“善球菌”)と有害な菌(“悪玉菌”)とから構成されており、通常、両者が一定の程よいバランスで生息し、細菌叢(腸内フローラ)を形成しています。そして、このバランスは老化、薬物(抗生物質、抗ガン剤など)、疾病、食物やストレスなどの種々の要因で変化し、“悪玉菌”の方に傾けて、健康を害することになります。


 “善球菌”には乳酸桿菌、乳酸球菌やビフィズス菌などの乳酸菌が代表的ですが、“悪玉菌”にはウェルシュ菌、大腸菌、ブドウ球菌、緑膿菌などが挙げられます(図1)。


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 また、腸内細菌は消化管の中で、生息する部位によって、数や種類が異なります。小腸の胃に近い所(空腸)では腸内容1 g当たり104個、小腸の大腸に近い所(回腸)では、107個、大腸では1012個とお尻に近づくにつれ、数は増加し、またその性質も酸素を嫌う嫌気性菌が増えてきます(図2)。


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 前回お話したように、われわれ生体にとって異物であるはずの腸内細菌は、免疫系によって排除されることなく腸内という特殊な環境の中で生息、いやもっと正確に言うならば“共生”しているのです。これも免疫寛容という現象であり、ここにギブ・アンド・テイクの契約が成立しています。そして、我々の体の中で、こうした契約を結べる場所は腸管以外にはありません。


“善玉菌”と“悪玉菌”

 それでは、われわれの生体は腸内細菌に対して、何を与えて(ギブ)、その見返りに何をもらう(テイク)のでしょうか?


 腸内細菌も生き物ですから、当然エサが必要です。通常は食物の未消化の成分、すなわち残りかす(残飯)です。しかしながら、残りかすとはいえ、“善玉菌”と“悪玉菌”で好みが違います。一般に、前者は植物由来のものを、後者は動物由来のものをエサとしています。


 食物繊維(ファイバー)を好む“善球菌”である乳酸菌は、乳酸、酢酸や酪酸などの有機酸を生成し、腸内のpHを低下させて酸性にすることにより、腸管の動き(蠕動)を活発にして便通を促します。さらに、こうした酸性の腸内環境はアンモニア、インドールなどを産生する“悪玉菌”の繁殖を抑制して、腸内フローラのバランスを保っています。


 これまでの研究で小腸の乳酸桿菌や乳酸球菌FK-23にはインターフェロンを増やして免疫力を高める働きがあることが分かりました。一方、ストレスや体力の衰えた時には“悪玉菌”が優勢になり、免疫力が低下します。また、脂肪や肉(動物性タンパク質)が主体の欧米型の食事を好んで摂っていると、大腸ガンが出現しやすいと言われています。


 すなわち、脂肪をたくさん摂取すると、消化のために必要な胆汁酸が多く分泌され、胆汁酸をエサとする“悪玉菌”が盛んに増殖します。この“悪玉菌”の作用によって、胆汁酸から発ガン物質ができることが分かっています。


 また、動物性タンパク質を多く摂取すると、消化吸収しきれずに残ったタンパク質をエサにする“悪玉菌”が増えます。動物性タンパク質を構成するトリプトファンというアミノ酸からは、“悪玉菌”の作用で発ガン性物質のインドールが産生されます。


 内臓脂肪型の肥満を伴うメタボリックシンドロームは高血圧や糖尿病などの予備軍として、最近注目されていますが、同じような話として、メタボの方はそうでない方に比べて、明らかに大腸ガンにかかる率が高いことも判っています。おそらく、乳ガンや前立腺ガンも同様に欧米型のライフスタイルが関係すると考えられています。


 以上のように、ガンが生活習慣病といわれる所以であり、腸内フローラのバランスが崩れることにより、免疫力が低下して発ガンに対するリスクが増えることになるのです。さらに、老化、すなわち高齢になれば“悪玉菌”が増えることが知られています(図3)ので、発ガンのリスクは年とともに増大することになります。


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乳酸菌が持つさまざまな働き

 乳酸菌がもつ免疫賦活(活性化)効果は、発ガン防止のみならず“悪玉菌”がしばしばもたらす感染防御にも有利に働くと考えられます。


 乳酸菌に代表される“善玉菌”には、通常知られている、便秘や下痢を改善させる整腸作用の他に、これからお話するいくつかの新たな働きがあり、最近注目されています(図4)。


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 最初に、コレステロール低下作用があります。海外でのデータでは毎日発酵乳240mlを飲むと、1週間で血中コレステロール値が5~15%減少したが、止めると元に戻ったという報告があり、乳酸菌にコレステロール値を下げる働きがあることが分かりました。乳酸菌の中には消化液である胆汁に含まれている胆汁酸を吸着して便と一緒に排泄する作用があります。胆汁酸は肝臓でコレステロールから作られるので、減った胆汁酸を補うべく、コレステロールが消費されることになります。


 次は、胃・十二指腸潰瘍や胃ガンの原因となるヘリコバクターピロリ菌を減少させる作用です。LG21という乳酸菌を含んだヨーグルトを1日2回、90gを食間に8週間飲用すると、ピロリ菌保有者で、87%の人に改善効果を認め、31名中3名は除菌が可能であったと報告されています。同乳酸菌は胃酸に強い菌株で、かつ胃粘膜に強く粘着する性質を持っているようです。


 一般に、ピロリ菌の除菌には三剤併用療法(胃酸分泌阻害薬と2種類の抗生物質)が行われていますが、除菌率は70%ですが、LG21を併用すれば、80%になると言われています。この場合、さらに、除菌法に伴う吐き気や上腹部痛、食欲不振などの副作用の軽減にも有効であると報告されています。


 歯周病や虫歯に対する予防効果もあります。LS1という乳酸菌はジンジバリス菌などの歯周病菌に対して、殺菌効果を示します。しかし、乳酸を出しすぎて、口の中が酸性になって虫歯を助長しないかという心配がありますが、LS1はある程度乳酸をつくると自分が作った乳酸で死んでしまいます。最近、清掃剤(歯垢除去成分)に生きた乳酸菌(ラクトミン)を使用した薬用歯みがきが発売されています。また、歯周病と生活習慣病との関連が注目されています。歯周病対策を含むオーラルケアーの重要性が叫ばれています。


 血圧降下作用については、乳酸菌が乳製品中のたんぱく質を分解してできる「ラクトペプチド」という物質に血管の収縮を促進する酵素の働きを抑え、血圧を下げる効果のあることが分かりました。


 さらに、アトピー性皮膚炎、喘息や食物アレルギーなどのアレルギー疾患の早期予防と症状改善効果について、報告されています。アレルギー疾患の中でもアトピー性皮膚炎は近年とみに増えている疾患です。


 1985年米国でヒトの腸内からLGGという新しい乳酸菌が発見されました。この乳酸菌は酸に強く、生きたまま小腸まで到達して、小腸にある免疫細胞に働きかけることが知られています。そこで、フィンランドのグループがアトピー症状のある妊産婦159人に予定日の2週間前から出産後6カ月間、LGGとそのプラセボ(外見上見分けの付かない偽のカプセル)を投与したところ、LGGを服用した母親から生まれた子供のアトピー発症率は23%(64人中15人)と、プラセボ投与された場合の46%(68人中31人)に比較して明らかに改善したという結果が出たのです。


 したがって、この結果は乳酸菌がアレルギーを軽減できたことを示すとともに、母親が妊娠中にどのような食生活を送るかで、子供のアレルギー体質を軽減できる可能性を示した結果と考えられます。日本でもLGGやBラクティスBb-12を用いて、同様の結果が報告されています。


 最後に、赤ん坊の腸内細菌について補足したいと思います。母親の胎内では、胎児の腸内は無菌状態です。産道を通過する際に、まず母親の腸内にいた細菌の洗礼を受け、皮膚をはじめ、腸管、気道に住みつきます。当初は“悪玉菌”が多いのですが、母乳やミルクを飲み始めるとビフィズス菌が優勢を占めます。その後、離乳を境に腸内細菌の数も種類も増えることになります(図2)。


 赤ん坊は母親の腸内細菌を持ち込むことになりますので、例えば、母親がアトピーで免疫バランスが悪い腸内環境にあれば、その赤ん坊もまたアトピーを発症する可能性をもって生まれてくることになります。子供の免疫異常に関連する要因が、生まれてからの食生活だけでなく、生まれる前の母親の腸内環境にもあるということは興味深いことです。
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 次回は、腸管での免疫寛容が破綻した特殊な病態である炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)についてお話したいと思います。


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いとう としのり
昭和52年大阪大学医学部医学科卒業。同60年米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部外科留学、同61年テキサス大学ヒューストン校医学部外科(臓器移植・移植免疫)留学。平成2年大阪大学医学部外科学第一講座助手、同5年米国ウィスコンシン大学(臨床膵臓移植)Visiting Fellow、同8年大阪大学医学部外科第一講座講師、同9年大阪大学医学部外科第一講座助教授、同17年1月より大阪大学大学院医学系研究科生体機能補完医学講座教授。主に、膵臓・膵島移植、膵疾患(特に膵ガン)に対する外科治療、炎症性腸疾患、補完代替医療に関する研究を行っている。